終活のバトンを、自分で組み立てる|50代おひとりさま、任意後見と遺言書を調べた話

おひとりさま

「エンディングノートを書けば、もしものときも安心」

——わたしも、つい最近までそう思っていました。

ところが、いざ書きはじめてみると、思わぬ落とし穴があったのです。

エンディングノートには、法的効力がない。

その先に出てきたのが、任意後見契約、遺言書、死後事務委任契約、見守り契約。聞いたことはあるけれど、どれが何のためのものなのか、最初はまったく見分けがつきませんでした。

50代おひとりさま、家族に「あとは頼んだ」と言える相手が近くにはいません。

自分の意思のバトンを、いつ・誰に・どう渡すか。

そんなことを少しずつ調べてわかってきたことを、今日はまとめておきたいと思います。

エンディングノートには法的効力がない、と知った日

きっかけは、ほんとうに些細なことだった。

少し前、インフルエンザで2、3日寝込んだ夜があった。体がだるくて、起き上がるのも億劫で、薄暗い部屋でぼんやり天井を見ていた。膝の上には、いつもどおり猫が丸まっていた。

ふと、頭の中に小さな声が落ちてきた。

「もし、このまま私に何かあったら。この子はどうなるんだろう」

それまで「終活」という言葉は、なんとなく頭の端にはあった。気にはなっていた。でも、本当に自分ごととして考えたのは、たぶんあの夜が初めてだった。

熱が下がってから、私はまずエンディングノートを買おうとした。本屋さんで気に入った1冊を選んで、ゆっくり書こうかなと思っていた。ところが、調べているうちに「紙のノートだとなくしそう」「字も雑になりそう」と気持ちが変わって、結局デジタルで作ろうと決めた。

そのまま「エンディングノートって、どこまで効力があるんだろう」と検索してみた。そこで、ちょっと驚いた。

エンディングノートには、法的な効力がないらしい。

正確に言うと、ノートはあくまで「私の希望」を書き残すもの。「葬儀はこんなふうに」「猫はこの人に頼みたい」「銀行口座はここ」と書いておけば、残された誰かが手がかりにしてくれる、そういう存在。だけど、法律として「こうしてください」と決めるなら、別に書類が必要らしい。

そうか、ノートだけじゃ足りないのか。

ぜんぶ自分で用意するのが、おひとりさま。改めてそう思った夜だった。

このあたりの「もしも」を考え始めた話は、別の記事にも書いた。

もし私に何かあったら、この子はどうなる?

ノートの先に見えた、ふたつの「契約」と「書類」

ノートに法的効力がないなら、何があるんだろう。

そう思って調べていくと、ぽつぽつと知らない単語が出てきた。任意後見契約。遺言書。死後事務委任契約。見守り契約。

最初は、頭の中がこんがらがった。どれがいつ使うものなのか、ぜんぜん見分けがつかない。

何度か読み返して、ようやく自分なりに整理がついた。それぞれ「カバーしている時期」が違うらしいのだ。

ざっくり時系列で並べると、こんな感じになる。

  • いま(私が元気で、判断力もしっかりあるとき) → 必要なら「見守り契約」(つまり、定期的に電話や訪問で安否を確かめてもらう契約)や「財産管理委任契約」(つまり、入院などで動けないときに通帳や支払いを代わりにお願いする契約)
  • 判断能力が低下したら → 「任意後見契約」(つまり、認知症などで判断が難しくなったとき、お金や手続きの代理をお願いする契約)が動きだす
  • 亡くなったら → 「遺言書」が、財産を誰に渡すかを決めてくれる
  • 亡くなった後の事務手続き → 「死後事務委任契約」(つまり、葬儀・行政手続き・住まいの片付けなどを誰かに頼んでおく契約)

書き出してみて、ようやく見えてきた。

これは、バトンを誰に渡すか問題なんだなと思った。

元気な私から、少し弱ってきた私へ。判断が難しくなった私へ。そして、私がいなくなった後へ。区間ごとに、バトンを渡す相手と、渡し方を決めておく。そういう話なんだと思う。

家族のいる人なら、たぶん自然と誰かがリレーのメンバーになってくれる場面もあるんだろう。でも、おひとりさまの場合、「誰かが自動でやってくれる」ということは、たぶんあまり期待できない。

バトンを、自分で組み立てる。

なんだか少し肩がずんと重くなったけれど、同時に「あ、ちゃんと制度はあるんだ」と、少しだけ安心もした。

任意後見契約——誰に、いつ、頼むか

まず気になったのが、任意後見契約だった。

任意後見契約というのは、つまり「将来、判断力が弱ってきたら、この人にこういう手伝いをお願いします」と前もって決めておく契約のこと。元気なうちに、自分で相手を選んで、内容も自分で決められる。

調べていて、なるほどなと思ったのは、これが必ず公証役場で公正証書として作らないと、法的に有効にならないということ。手書きで「私が認知症になったらこの人にお願いします」とメモに書いても、それは契約として認められない。きちんと公証人という法律の専門家の前で作る必要があるらしい。

法定後見と任意後見の違い

似たような言葉に「法定後見」というのがある。

ざっくり言うと、法定後見は判断能力が落ちてから家庭裁判所が後見人を選ぶ仕組みで、任意後見は元気なうちに自分で後見人を選んでおく仕組み。だいぶ違う。

「自分で選んでおきたい」と思うなら、任意後見の方になる。

3つの類型がある

任意後見契約には、開始のタイミングで3つの型があるらしい。

将来型

いまは何もしない。判断能力が落ちたときに、家庭裁判所への手続きを経て効力がスタートする型。

移行型

これが一番よく使われているらしい

いまから「財産管理委任契約」と「見守り契約」を組み合わせて、少しずつ手伝いをお願いしておく。そして、判断能力が落ちた時点で「任意後見」へ自動的に切り替わる、というイメージ。

つまり、元気なうちから少しずつバトンを渡し始めて、必要なときにシームレスに移行する型ということになる。

即効型

すでに軽い認知症などがあって、契約後すぐにスタートさせる型。

費用はいくらくらいかかるのか

ここはとても気になるところだった。

2026年5月時点で調べた範囲では、公証役場の手数料が1契約あたり11,000円、公正証書作成手数料が13,000円ほど、枚数加算で1枚300円、というのが目安らしい。

合計すると、おおよそ数万円〜が目安になる、と書いてあった。移行型は契約が2本立てになるので、その分追加で費用がかかるとのこと。

家を1軒買うような話ではないけれど、コーヒー1杯のついでに、というわけにもいかない金額。心の準備はいるなと思った。

おひとりさま特有の悩み

ここからが、私にとって一番のもやもやポイント。

受任者を誰にするか問題

任意後見契約は、相手(受任者というらしい)がいないと成立しない。

身内が近くにいる人なら、たぶん「とりあえず妹に」とか「甥っ子に」と決められるんだろう。でも、姉は遠方で、お互いに自分の暮らしで手いっぱい。私はやっぱり、家族の誰かに頼むのは現実的じゃない気がする。

調べてみると、おひとりさまの場合は、司法書士・弁護士・社会福祉協議会といった専門家や団体にお願いする選択肢があるらしい。報酬が発生するけれど、ずっと客観的に動いてくれる安心感があるとのこと。

ここは、もう少しじっくり調べてみたいところ。

見守り契約と組み合わせる話

任意後見契約は「判断能力が落ちたら」発動するものなので、それまでの間、私が元気でいるかどうかを誰かが見ていないと、発動のタイミングを誰も判断できない。

そこで「見守り契約」と組み合わせる、という発想があるらしい。月に1回電話、季節ごとに訪問、というふうに、定期的に様子を見てもらう。なるほどなと思った。

死後事務委任契約とセットで考える話

そして、ここが盲点だった。

任意後見契約は、私が生きている間しかカバーしてくれないらしい。

亡くなった瞬間に、任意後見の効力は切れる。葬儀の手配、行政への届け出、住まいの片付け、こういった「死後の事務」は、別途「死後事務委任契約」を結んでおかないと、引き受けてくれる人がいなくなってしまう。

任意後見だけ準備して安心、というわけにはいかないんだなと知った。

遺言書——自筆と公正証書、それから法務局の保管制度

次に調べたのが、遺言書のこと。

遺言書には、よく使われる種類が大きく2つあるらしい。自筆証書遺言公正証書遺言

ざっくり比較

種類書き方保管費用の目安特徴
自筆証書遺言(自宅保管)自分で全文手書き(財産目録だけPC可)自宅などほぼ0円書き方ミスや紛失のリスクあり
自筆証書遺言(法務局保管)自分で全文手書き法務局保管手数料3,900円紛失・改ざんの心配がほぼない/検認手続き不要
公正証書遺言公証人が聞き取って作成公証役場数万円〜(財産額で変動)もっとも確実

※2026年5月時点で調べた範囲です。

法務局の保管制度を知って、ちょっと安心した

調べていて「これは知れてよかった」と思ったのが、法務局の自筆証書遺言書保管制度。2020年7月から始まった、比較的新しい仕組みらしい。

自分で書いた遺言書を、法務局に預けられる。保管手数料は1通3,900円。

これまで、自筆証書遺言の弱点は「家のどこかにしまっておいて、見つけてもらえない」「書き換えられるかもしれない」「家族が亡くなったあと、家庭裁判所での検認手続きという面倒なステップが必要」というところだった。

法務局に預ければ、紛失も改ざんもほぼ心配がない。しかも、検認の手続きもいらない。

公正証書遺言ほど確実とは言えないらしいけれど、3,900円でここまで安心できるなら、これはひとつの選択肢として真剣に検討してもいいなと思った。

相続人がいないおひとりさまの場合

そして、これは知っておかないとまずいなと思った話。

法定相続人がいない、かつ遺言書もない場合、財産は最終的に国庫に帰属するらしい。つまり、私の預金や家財は、最終的に国のものになる、ということ。

私には子どもがいない。母はすでに亡くなっていて、家族のことを考えていくと、いずれ私の相続人になりうるのは姉だけ、ということになる。もし姉が私より先に亡くなった場合は、姉の子(甥姪)に相続権が移る、というのが基本らしい。

それでも、もし「特定の友人にお礼を渡したい」「保護猫の団体に寄付したい」「猫のお世話に充てたい」と考えるなら、遺言書がないと、その希望は叶わないことになる。

これは、ちょっと重い話だなと思った。

私がコツコツ貯めてきたお金が、最後どこに行くのか。それを決められるのは、私が元気なうちだけ。遺言書というのは、思っていたよりずっと「自分の意思を形にするための書類」なんだなと、改めて感じた。

猫を残すなら、遺言にも書いておくべき?

ここでもうひとつ気になったのが、猫のこと。

少し前にペット信託について調べた記事を書いた。猫を残して逝けない、と思って始めた調べものだった。

猫を残して逝けない|50代おひとりさまがペット信託を調べてわかった、思ったより複雑な現実

ペット信託というのは、つまり「猫のためのお金を信託会社などに預けて、お世話してくれる人に毎月渡してもらう仕組み」のこと。あの記事を書いたときは、「ペット信託って便利な仕組みだなあ」と思ったけれど、今回さらに任意後見と遺言について調べてみて、「ペット信託だけでは足りないかもしれない」と思うようになった。

たとえば。

「猫のお世話を、Aさんに頼みたい。お世話のお礼として、いくらか渡したい」と思うなら、それを遺言書にも書いておくといいらしい。「Aさんに〇〇円を遺贈する。代わりに、私の猫の世話をお願いしたい」と書いておくイメージ。

それから、もしペット信託をすでに契約しているなら、遺言書にもその存在を明示しておくと、私が亡くなったあと「あ、信託があるんだな」と関係者がすぐに気づける。

猫のためのバトンを、ペット信託と遺言、両方で支える。

そんな組み立て方もあるんだなと知った。

私の小さな一歩——いまの私にできる宿題リスト

ここまで書いてきて、正直、頭の中はちょっとパンクしている。

任意後見、遺言、見守り契約、死後事務委任契約、ペット信託。覚えることが多い。でも、最初に書いたとおり、全部いますぐ用意する必要はない、と私は思っている。

まずは、知ること。

そして、私のいまのペースで、少しずつ手を動かしていくこと。

私の宿題リスト

  1. 入門書を1〜2冊読んで、全体像をもう一度つかみ直す
  2. 公正証書って具体的に何かを、公証役場のサイトで眺めてみる
  3. 法務局の遺言書保管制度の使い方を、もう少し詳しく調べておく
  4. 「もし任意後見を頼むなら、誰だろう」を、1人でいいから想像してみる
  5. ペット信託と遺言の関係を、改めて自分の言葉で整理してみる

ぜんぶいっぺんには無理だけど、これくらいなら、ゆっくりやれそう。

入門書、まずはこの2冊から

調べているうちに、これは買ってみたいなと思った本が2冊ある。

『おひとりさまの終活準備BOOK』(酒井富士子 著/想像社/2021年)

図解中心で、特にお金まわりに強い入門書らしい。年金、相続、保険、契約まわりを、視覚的にざっくりつかむのによさそう。

「文字ばかりの本だと、途中で挫折してしまうかも」と思っている私にとって、図解中心というのは助かるポイント。私も買ってみたい1冊。

『おひとりさまの親と私の「終活」完全ガイド』(日経WOMAN 編/日経BP/2020年)

こちらは、親の終活と自分の終活を並行で考えられる構成になっている1冊。

私はちょうど、父のケアハウス入居がひと段落したところ。父の話と、自分の話を、別々の本で読むより、ひとつの流れで整理できるのはありがたい気がする。

私も買ってみたいと思っている1冊。

入門書を読んでから、改めて「自分にとってどの順番で動くか」を考えてみたい。

おわりに

調べ始めた最初の夜は、正直、ちょっとしんどかった。

「あれも必要、これも必要、しかも全部お金がかかる」と書いてある記事ばかりで、頭の中がぐるぐるした。

でも、しばらく時間をかけて読みなおしているうちに、「ぜんぶ今日決めなくていい」と気づいた。

任意後見も、遺言も、ペット信託も、見守り契約も、全部いっぺんに準備するものではないらしい。順番をつけて、私のペースで、少しずつ。まずは知ること。それだけで、最初の宿題はクリアだと思うことにした。

私もまだ、調べ始めたばかり。また何かわかったら、ここに書いていきたい。

終活の全体像については、こちらの記事にもまとめている。

50代おひとりさまの終活|まだ調べ始めたばかり、気になる9つのこと

そして、猫のためのバトンを考えた話は、こちらに書いた。

猫を残して逝けない|50代おひとりさまがペット信託を調べてわかった、思ったより複雑な現実

実際にエンディングノートを書こうとしてみたら、思いがけない宿題が出てきた話も書いている。

エンディングノートを書いてみたら、サブスクが思ったより重荷だった話|50代おひとりさまの途中報告

父のケアハウス入居の準備で揃えたもの・揃えなくて済んだものの話も、参考までに。

父のケアハウス入居準備で揃えたもの・買わなくて済んだもの|50代おひとりさま、介護のリアル

今夜も、膝の上には猫がいる。

この子のために、そして自分のために、今日のところはこれくらい知れて、よかったと思う。


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